令和4年11月22日(火曜)付けの資料を読んだ感想を書かせていただきます。
本資料では、アドバイザーや金融経済教育の必要性について強調されていますが、それらを議論する前にやるべき課題があるということを申し上げたいと思います。
国民の健全な資産形成が目的なのですから、そのための土台作りが最優先なのではないでしょうか。それはすなわち、
- 制度の単純化、簡素化。
- 商品の単純化、簡素化。
です。
この観点からみて、金融庁がつみたてNISA対象商品として指定しているインデックスは素晴らしいです。(ただし、内容は同一なのに手数料の異なる商品が(場合によっては全く異なる商品名で)販売されているという、一物多価の問題の解消は必須です。)
そもそも、資産形成の開始時には有料のアドバイザーなど不要です。
誰もが、国が整備する最低限の情報提供で始められるように、制度や商品を単純化する必要があります。イギリスの制度を見習って導入しているのですから、そのあたりも見習うべきでしょう。
ウエルスナビの利用者が伸びていることからもわかるように、開始時はAIのガイドなどで十分なのです。
私が20年以上顧客と接してわかることは、真にプロのアドバイスが必要になるのは開始時ではなく、ある程度資金が貯まってきてからです。(この”ある程度”には個人差が大きいことは考慮すべき特徴です。)
投資を始めたばかりの人は、10万円貯まっただけでも「この資金をマイナスにしたくない」と考えがちで、ちょっとした下落局面で運用から引き揚げてしまいます。長期投資を成功させるには、長期的に伴走するようなアドバイザーが必要なのです。
次に、金融経済教育についてです。
プリンシプルベース規定の法制化(この言葉自体変なのですが)が議論され(すなわち、フィデューシャリー・デューディ―の浸透が注視され)ているのはなぜでしょうか。それは、金融というものが、情報の非対称性がありフィデューシャリー・デューティ―が課されるべき業種だということです。即ち金融機関も、医師や弁護士のように顧客とは一種の依存関係にあたるということを意味します。
それであれば、患者が医学の勉強をしない、依頼人が法律の勉強をしないように、金融機関の顧客もまた投資の勉強をするものではないのです。金融機関側が顧客に学習を促したり、疑問点を質問させることを期待したりすることは信認関係を放棄しているも同じであり、顧客に求めすぎなのです。
そもそも勉強したくない人に”お金の勉強しましょう”と言っても勉強するはずもありません。
一般生活者が勉強すべきは”投資”ではなく、税金、年金、健康保険のこと、そして株式会社や会社の成り立ちです。そういった経済という循環の中で、自分が当事者である意識を育てること。社会に対して当事者であるという教育が必要です。
そして日本の投資環境の問題点として、投資信託の信託報酬をあげます。
日本の信託報酬はイギリスやアメリカとは違い、何に対する報酬なのか判然としないものになっています。「顧客へのアドバイス料が入っているか否か」明記されていないのです。アドバイザーが食べていけるようにする云々の前に、顧客が支払う手数料全体を法整備する必要があります。
法整備がされないのであれば、各金融機関は、投資信託の信託報酬にアドバイス料が含まれるか否か、を明記し、ある程度の信託報酬は確保して対面希望のお客様をがっちりグリップすれば良いでしょう。
(英米では、運用報酬と相談料を合計し、全体で1%程度のコストがかかります。アドバイス不要である顧客層は、より安価なコストで運用が可能です。ちなみに日本の現状を鑑みるに、つみたてNISAの取り扱いは帳簿上の収益を度外視しなければできない業務であることは必至)
経営者にしていただきたいことは、行職員が「われわれの頂戴する信託報酬にはアドバイス料が含まれております。逃げません。長期投資成功させましょう」と顧客に堂々と言える環境を顧客にも行職員にも提供することだと思います。
まさに付加価値の創造なのではないでしょうか。
これは今のところ、どの販売会社も明記していないはずです。
最後に、銀行やアドバイザーをどのようにして成り立たせるか、の議論は目的と手段の混同です。目的はあくまで国民の資産形成、そのために必要なのはまず投資環境の整備=仕組みの単純化です。
国も、金融機関も、運用会社も、アドバイザーも、今の時代を生きる当事者なのですから、本気で国民の資産形成を成功させるための方法を愛をもって一緒に考えていきましょう。