ハヤブサの目を借りる気持ちで
深い問題意識と広い視野に基づいた取材から書かれた本書は、まるで濁流の蹂躙する密林の中にも清流があることを教えてくれる。
2015年の森信親長官の登場を境に、金融行政の方針は大きく転換された。にもかかわらず、多くの金融機関は旧態依然としている。そしてコロナ禍に襲われ、大きな傷を受けた日本経済が我々の足元に横たわっている。そんな今、われわれ金融機関関係者は何をどうすべきなのか。
本書では、金融行政の歴史から失敗と学びを考察し、コロナ禍で行われた緊急対応とその先の懸念に目を向ける。そして、混沌とした金融業界の中にわずかだが、確かに流れる清流のような取り組みを取り上げる。
本書のキーワードは「自分ごと」
金融行政から一律に下されるマニュアルや処方箋などない。お客様個々の事情、地域性の問題など、自分達が直面している課題に、都度考えながら取り組んでいくしかない。本書で取り上げられている物語も、多くの金融機関読者にはそのままは当てはまらないものだ。
これを自分でかみ砕き、いかに自分ごととして読めるか、それが読み手の分岐点だろう。
金融機関に勤務している人たちは、トップはトップなりの視野、現場職員は現場ならではの視野がある。
一度筆者の目を借りて高くから全体を見回し、清流まで下りてそのみずみずしさに触れてみても良いのではないか。
特別附録 金融庁「業種別支援の着眼点」徹底解説では、原案策定に関わった伊藤貢作氏への取材も読み応えがあった。同業種でも一律に語れない。それは言葉としては理解しているつもりだが、具体的にどのようなことであるのかが、具体的に記載されている。
私は普段何気なく利用している業種に対し、リスクを負って事業を展開している地元の中小企業に改めて尊敬の念を持つことができた。